2017年8月20日日曜日

わが恋は夏野の薄

エアコンつけたまま昼寝していたら、風邪をひいた。喉が痛い。
ようやく週末が来たよ。もう11連休いい加減に飽きた。
夏は暑いし、人は多いし、どこにも出かけたくない。
休み長すぎ。

昼間、買い物帰りに近所の公園の側を通った。
これって、すすきだったんだ。

池の中に背の高い草がもさもさ生えていて
うっとうしいなあ、どうして刈らないんだろうと思っていたけど
すすきは、わざわざ庭に植える人もいるくらいだし
もしかしたらここもそうかも。

単なる雑草だと思っていたのが、穂がでて初めてすすきと気付いた。
枯れて、穂がふさふさすると秋の風情を感じる植物になるけど
夏の間は暑苦しいだけのただの雑草ね。

兵庫県の神河町というところに、映画「ノルウェイの森」のロケ地にもなった
有名なすすきの野原があるのだけど、写真でみると秋はすごく綺麗。
でも、夏の間は一面こんなにもっさりしているってことよね。
うわー、草刈り機で一気に刈ってしまいたい。

 我恋は夏野の薄(すすき)しげゝれど穂にしあらねば問う人もなし

これは源実朝の歌集「金槐和歌集」に入っている歌で
私の恋は夏の野原のすすきのようなものだ
どんなに想いが溢れていても、表に出ないので
恋をしているのですかと問う人もいない
という意味の、忍ぶ恋を詠った歌。

これを読んだとき
だれが上手いこと言えと?
と思ってしまった。だってほら、AとかけてBと解く、その答えは?みたいで
笑点の大喜利に風流コーティングしました、という感じなんだもん。

ほかにも上手いこと言うてますよ。

 我恋はかこのわたりの綱手縄たゆたふ心やむときもなし

私の恋は加古の渡しの縄手綱がたゆとうごとく
揺らぐ心の止むときがない

和歌というのは比喩を使って上手いこと言うことなのかなあ。
(違うと思うけど)

すすきの穂花が出始めたのを読んだ歌なら、西行のこっちの方がいいかな。

 茂りゆきし原の下草尾花出でて招くは誰を慕ふなるらん

和歌のことはあまり良く分からないのだけど
源実朝は、万葉調の歌人だと言われたこともあったのね。
言ったのは正岡子規ですけど。

 大海の磯もとゞろにゆする波われてくだけて裂けて散るかも

これなんか万葉集に入っている歌ですと言われたら
ほーそうですかと信じてしまいそう。

この和歌が載っているのは、岩波の「日本古典文学大系」の中の一冊で
西行の山家集と実朝の金槐和歌集がひとつにまとまってる。
出先のビルのロビーで古本フェアやってて、たまたま目についたから買ってみた。
寝室に置いていて、眠れないときなどにパラパラめくっているのだけど
両方を読み比べてみると、なんとなく西行の方が洗練されている感じね。
和歌は良く分からないから、なんとなく、だけど。

でも実朝の歌、結構好きかも。

 田子の浦の荒磯(あらそ)の玉藻波の上にうきてたゆたふ恋もする哉

田子の浦の荒磯の波の上に漂っている玉藻のように
はかない恋をしているんだよなぁ、という歌。
このふわふわ漂うような寄る辺ない感じと、
若くしてあっさり暗殺されちゃった実朝の身を重ね合わせると
なんとなくしんみりしてしまう。


この池にはがまの穂も生えていて、秋になると全部刈り取られるのだけど
刈り取った分欲しい。買ったら高いんだもん。

天気が良かったのと風がなかったので、水にくっきり空が映りこんで
水面を滑るようにカモが近づいてきて、水の上の空に浮かんでいるようだなあ
などと陳腐なことを言ってしまう。あー、私って表現力ないわ。

感情をうまく表現する言葉を持たないって、結構しんどいね。
言葉だけでなく、絵とか音楽とか。そういう才能がある人ってうらやましいわ。

金槐和歌集とは鎌倉右大臣を唐風にもじってつけられた名前だと
解説に書いてあった。金は鎌の偏の金、槐は大臣の異称
金槐で鎌倉の大臣と言う意味。誰が上手いこと言えと。
これは佐々木信綱先生の説だそうです。

使いどころのないマメ知識を付けてしまった。
たまには解説も読んでみるもんだ。

と、ぐたぐた思いながらうとうとして、目が覚めたら夜だった。
また人生を無駄にしてしまった。

人生無駄、というか全部放り投げた人の歌。

 世の中を背きはてぬと言ひおかん思ひしるべき人はなくとも  

西行は職も家族も捨てて、すがる娘を蹴飛ばして出家したそうですが
いったい何があった?
「思ひしるべき人はなくとも」そら、ないやろ。

 そらになる心は春のかすみにて世にあらじともおもひ立つ哉

空虚になっている心は春のかすみのようで
憂き世にとどまるまい、と思い立ったよ。
みたいな意味かな。
出家前の23歳の時の歌だそうで
なんとなく出家したいと思うのは分かるけど
思うのと実際やっちゃうのとの間には広くて深い川があるよ。
それを飛び越えさせたもの、何だったんだろうね。

私もなにもかも放り投げて隠遁生活を送りたい。
花鳥風月を愛でる生活をしたい。
でも、隠遁生活には結構お金かかるのよ。
定期収入なしで暮らせるほどの貯蓄。
そんなん、無理無理。足腰立つ間は働き続けないと。

我が身ひとつの身の振り方もままなりませんわね。
仕方ないから、スイカ食べて寝る。


***

風巻景次郎、小島吉雄校注『山家集 金槐和歌集』日本古典文学大全 岩波書店 1961年

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