2017年7月16日日曜日

暑いので怪談その参

三連休だというのに、暑いので扇風機の前から動けない。

ついにエアコンを買った!
もう木曜日と金曜日の朝の暑さで、しんどいなんてもんじゃない。
起きたら頭が痛くてふらふら。正直、身の危険を感じたわ。

でも工事は来週末。明日は気温が36度まで上がるとか言ってるし
耐えられるか、私。快適なエアコンライフを夢見て一週間を乗り切るわ。

ついでに?桃も買った。
今年はじめての桃。スーパーであまりによい香りがしていたので。

金曜日にセミの抜け殻を見つけた。

ここ数日、帰り道に道端でごろんとした太い虫を良く見かけるようになって
なんぞこれは?とよく見たら、セミなのね。
で、気の早いセミはもうこんな風に脱皮している。
セミが地中から出てきたということは、もうすぐ梅雨が明ける。

***

あまり涼しくならないと思うけど、桃をかじりながら、怪談。

幽霊を車に乗せたと言う話はよく聞きますよね。

タクシーの運転手さんが、暗い道で若い女性を乗せた。
その女性は俯きがちで何もしゃべらない。
目的地について、着きましたよと振り返ったら
誰もいなくてシートがぐっしょり濡れていた、というやつ。

若い女性、白いワンピース、顔が隠れる長い黒髪が定番ですわ。

こういうのも普通に説明はつきます。
夜遅くだから運転手さんは疲れていただろうし
あそこで幽霊を乗せたという話も、職場で噂になっていただろうし
疲れと噂話が一緒になって、幻覚を見せたのだろう、と。

では、別に疲れてもいないし幽霊の噂もない場所で
乗せてしまった場合、いったい何があったんでしょうね。

これは、15年ほど前に実家に帰ったときに聞いた話。
町内会で話題になったんだってさ。

****

ある冬の日のこと、近所の60代の男性が奥さんと二人
車で峠を越えていた。

峠と言っても、新しい明るいトンネルはついているし道幅は広いし
近隣の人は慣れている峠道。
時間は夜、といってもまだ8時にはなっていなかった。

トンネルを越えてしばらく下ると、前方の道の端を
女性が歩いているのに気付いた。

追い抜いたときに見ると、ジャンパーにスラックス
マフラーを巻いた、近隣の主婦といった感じの服装。
小柄な女性が、寒いのか肩をすくめるように
背中を丸めてトコトコトと山道を下っていた。

いくら道が広いと言っても、こんな夜に山道を女性がひとり
危ないじゃないか、と思った男性は
少し先に行ったところにある駐車場で車を停めた。

そこは、名水で有名な湧き水を汲みに来た車のための駐車スペースで
街灯もついていて明るい。しばらく待って女性が通りかかったとき
男性は車から降りて声を掛けた。

奥さん、奥さん、どこまで行かれるんですか。
夜になると車は結構飛ばしますから、歩いていると危ないですよ。
よかったら送って行きますよ。

急に声を掛けられて立ち止まった女性を街灯が照らす。
年齢は40過ぎぐらい、痩せていて化粧っけがなく
山道を歩いていたせいか、顔色が悪い。

知り合いではなかったが、男性はその顔を見て
どこかで見たことのある人だ、と思った。

「わたしはこの麓の、○○というところまで行くのですけど・・・」
と女性が答えると、
「ああ、○○ですか。私は△△のものです。
家内と一緒に山の向こうの親戚に行った帰りです。
○○なら通り道なので送りましょう」
そう言って男性は、車に乗るように勧めた。

○○なら知り合いもいてよく行く。
きっとその時見かけたか、近くの大型スーパーで見かけたか
とにかく、この人は見たことがある人だ
男性は改めてそう思った。

近隣の住民だと言ったからか、妻が乗っていて男性ひとりではないからか
女性はほっとしたように、それは助かります、と何度もお礼をいって
後部座席に乗り込んできた。

車を発進させ、また山道を下りながら
「どうしてこんなところを一人で歩いていたのですか」と訊ねると
山の向こうの町の病院に行った帰りだという。
バスがなくて仕方なく・・・と。

走りながら、ときどきちらりとミラーで後ろを見ると
よほど疲れたのか、女性は俯いて眠っているようだ。
助手席の妻も眠っているのか目を閉じている。

三人無言のままで山道を下り、15分くらいで○○村に入る分かれ道まで来た。

男性はそこで車を停め、奥さんここでいいですか。
よかったら家の前まで・・・といって振り返ると
そこに女性の姿はなかった。

いない?どうしたんだ。停めたときにすぐ降りたのか?

慌てて車を降りて辺りを見回しても、女性の姿はどこにもない。
女性は忽然と消えてしまった。

男性は車に戻り、おい、あの人はどうした?どこへ行った?
と助手席の妻に声を掛けた。

妻はきょとんとした表情で、お父さん急に車を降りでどうしたの?
あの人って誰よ、何を言ってるの?と言う。

さっき水汲み場の下の駐車場で女の人を乗せただろうが。
あの人がいなくなったんだよ。

ところが妻は、何言ってるの、駐車場で止まってなんかいないわよ。
まっすぐここまで帰ってきたじゃないの、と。

お前寝てて覚えてないだけだろう。
ずっと起きてたよ。お父さんこそ寝ぼけてたんじゃないの?
運転しているんだからしっかりしてよ。
と押し問答になり、家では息子にまで、
おやじ、ボケるのはまだ早いぞと言われる始末。

妻から何度も否定されて、男性本人も
夢を見ていたのだろうか、と思うようになった。
それにしてははっきりしすぎている。
それに、あの女の人は確かにどこかで見たことがある。

モヤモヤしたまま数日をすごしていた男性も
日々の忙しさに、やがてその出来事を忘れていたが
年末、忘年会の席で○○に住んでいる友人と同席したので
酔っぱらったついでの話のネタという感じで
あの不思議な体験を話してみた。

最初は、お?怪談話か?と面白がっていた友人が
女性の特徴と、同じ村の人だと言うのを聞いて表情を変えた。

その人、山の向こうの病院に行っていたと言ったんだな?
と真顔で確認してきたので、確かにそう言ったと答えると
うーん、もしかしてあの人かな、と。

友人の近所の家の奥さんがその病院に入院していたが
治療の甲斐なく亡くなってしまった。
年齢も風貌もその奥さんに似ている。
まだ小学生のお子さんが二人いて
自分がもう長くないと知っていた奥さんは
あとに残す子供のことをそれはそれは心配していたと言う。

まだ若かったからなあ。葬式でも子供さんが
お母さん、お母さんとお棺にすがって泣いて泣いて
気の毒で見ていられなかったわ、と。

子供のことが心配で、家に帰りたかったんだろうなあ
男性と友人は二人で母親の気持ちに涙したという。

****

暗い道で女性を乗せる、同乗者が気付かない
目的地に着いたら姿が消える、と言う点は
こういう話のパターンを踏襲していますわね。

違うのはこの話の場合、運転者本人の意志で車に乗せたこと
白い服の女性ではなく、ごく普通の服装をした40代の主婦であること
特徴を覚えているくらい、はっきり顔を見ていること
世間話のような違和感のない会話をしていること。

さらに、うちの田舎の怪談パターンとして
体験者が中年を過ぎた男性で、敏感なお年頃でもなく
オカルトマニアでもなんでもなかったことと
そもそもこの峠を歩く人はいないので
幽霊が出るという噂もまったくなかったということ。

でも、こういう話を聞いて疑いもせずみんなで語り合い
「小さい子残したらそれは心配やわ、気の毒になあ」
と同情してしまう土地柄を考えたら
やっぱり男性の幻覚だったのかもしれない。

なにせ、うちの母もこの話を母に教えた近所の人も
一番の疑問点が、家でお葬式を出したのに
どうして奥さんは山道を歩いて家に向かっていたんだろう
ことだったので。

思わず、そこかよ!亡くなった奥さんが歩いていたことは
疑いもない大前提かよ!とつっこみ入れたくなった。

うちの田舎には、家を離れたところで亡くなった人には
家族が「さあ、一緒に家に帰りましょう」と声を掛ける習慣がある。
それをやらないと、亡くなった人が迷ってしまって帰ってこられなくなるんだとか。

若くて亡くなっているから、家族もショックでそんな余裕がなかったんやろうねえ。
やっぱりちゃんと言うてあげんとあかんねんなあ、って
しみじみ言ってたわ。

この話が本当かどうか分からないけど、実家に帰ったときなど
夜、その山道を車で走っていると、あの奥さんはどんな思いで
この峠を越えたんだろうかと、ふと思ってしまうの。
暗い道を、速足でひたすら下っていく女性の姿が見えるようで
そのイメージのほうが、話の真偽よりも私にとってはずっとずっと大事なの。

この手の話は山のようにあるので、また思い出したら書く。
怖くないけど。


***

明日は京都に行く予定。
祇園祭だよ。

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